
日本銀行は10月9日、いま世界で話題となっている中央銀行デジタル通貨(以下、CBDC)についての新たな方針を「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」にまとめて発表しました。
公表された「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を見てみると、日銀は現時点ではCBDCを発行する予定はないと明言していますが、CBDCの需要、利便性に対しては一定の理解を示しており、今後様々な環境変化に対応できるように準備をしていくとあります。
一体、日銀はCBDCをどのように考えているのか、また各国のCBDCの見解・導入実績を詳しく解説していきたいと思います!気になった方は最後まで記事をチェックしてみてください。
目次
#中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは
まず最初にCBDCについて解説していきたいと思います。
出典:BIS(国際決済銀行)
Source:https://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt1709f.htm
これはBIS(国際決済銀行)がリリースした資料に記載された「マネーの分類」を表したベン図です。
中央銀行発行(青)、ユニバーサルアクセス(赤)、デジタル(緑)で表されており、その三つの特徴を併せ持つのが黄色でハイライトされたCBDCです。
今流通している代表的なマネーは、銀行券、中央銀行のリザーブ(当座預金)、銀行預金の3つがあります。そして、これらは、次の3つの特徴によって分類できます。第一に、マネーの形態(発行媒体)がデジタルか、フィジカルか。第二に、マネーの発行主体が中央銀行か、民間か。
第三に、マネーの利用主体の範囲が一般利用か限定利用かです。
では実際に代表的なマネーを例に挙げて説明していこうと思います。銀行券は、中央銀行が発行するフィジカルのマネーであり、利用主体に制限がありません。
一方、中央銀行のリザーブ(当座預金)は、中央銀行が発行するデジタルベースのマネーであり、利用主体が金融機関などに限定されており、企業や家計は保有できません。最後に、銀行預金は民間が発行するデジタルベースのマネーであり、企業や家計など広く一般に保有されています。
これに対して、CBDCは、中央銀行が発行するデジタルベースのマネーであり、個人や一般企業を含む幅広い主体の利用を想定しているので、ベン図にあるように全ての三要素を持ち合わす新たな第四のマネーと言えるでしょう。
また、日本銀行(日本の中央銀行)はCBDCのことを以下のように定義しています。
①デジタル化されていること
②円などの法定通貨建てであること
③中央銀行の債務として発行されること
①~③の全ての項目を満たしていなければいけません。
また、②・③を満たすのが日本銀行券つまり私たちが使っている現金となります。
なので、CBDCを一言で表すなら、現金をデジタル化したものと言えるでしょう。
日本銀行が発行しているので信頼性・安定性が高く、現金を持ち歩くことの煩わしさの解消や、スムーズな決済を可能にするなどのメリットがありそうですね!
#各国のCBDC導入実績
ブロックチェーン技術の発展、スマホの普及、さらにフェイスブックの暗号資産『リブラ』に感化され、昨年から各国の中央銀行でのCBDCについての議論が活発化しています。
さらに新型コロナウィルスの感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)の影響で、デジタル決済の必要性・利便性が再認識されています。
それでは、CBDCが各国でどのように受け止められて、位置づけられているのか見ていきたいと思います。
各国の中央銀行のデジタル通貨の発行・検討
日本 | 2021年度に実証実験を開始、民間や消費者が参加する実験も検討 |
中国 | 2014年から研究チームを立ち上げ、17年にデジタル通貨研究所を設立。
CBDCの実証実験を実施中。22年の冬季北京五輪までの発行を目指す。 |
韓国 | 2021年度に実証実験を開始
第1段階にあたる要件定義と設計、およびプロジェクト施行に必要な技術の見直しはすでに完了。 |
カンボジア | 2017年からCBDCのプロジェクトを開始。
2019年度に試験運用開始。 2020年度前半にはCBDCがローンチするとホワイトペーパーに明記。 |
欧州 | 2021年半ばまでに提案を進めるか決定。 |
スウェーデン | 2017からCBDCに関しての議論を進める。
2020年から実験プロジェクトを実行。早期導入を検討。 |
アメリカ | 日欧などの共同研究に途中参加。 |
(ソース:日本経済新聞)
こうみると、CBDC発行に向けて具体的に動いている国がいくつか存在しますね。
上記にも述べた通り、新型コロナウィルスの影響で今年に入って積極的に各国が検討している印象ですね。
しかし、通貨のデジタル化を推進した要因はほかにもいくつかあります。
CBDCの導入を積極的に推進している国は、国民の現金使用比率が著しく低下、あるいは自国通貨や決済に関するインフラに不安があるといった問題を抱えています。
例えば、スウェーデンでは、近年現金の使用が減少し急速にキャッスレス化が進んでいます。そこで最新デジタル技術を全面採用しイチから決済制度を構築したほうが効率的といった事情もあるようです。
また、意外かもしれませんが世界で一番早くCBDCが導入されるのはカンボジアと言われています。
カンボジアでは、若年層が多く、技術に精通したカンボジア国民のモバイルバイキングが急速に進んでいます。またドル依存が問題となっておりそれを脱却するために中央銀行のコントロールが効くCBDCは現状打破する突破口として期待されています。
実際に19年から銀行14行と1万人以上のアクティブユーザーでテスト運用を開始し、導入については準備を完了している状態です。新型コロナウィルスによって実行するのが遅れていますがCBDCの導入は秒読みとされています。
また、このカンボジアのCBDCを支えるのは日本のフィンテック企業のソラミツが提供する技術です。ソラミツが開発したブロックチェーン「ハイパーレジャーいろは」は一秒の間に数千件の取引を実行することができるようです。
日本発の技術が世界で利用されているのもうれしいですよね。
中国は、ブロックチェーン技術で業界をリードしていますが、CBDCについても積極的に取り組んでいます。
その背景には、銀行口座を持たない、銀行のサービスを受けることができない人に向けたファイナンシャル・インクルージョンの実現に向け、また、ドル以外の貿易での決済方法の構築などがあげられます。
そのため、早期導入を実現するために、中国では、中国のCBDC、デジタル人民元の試験運用を複数の都市で実施しています。広東省深圳市では市内在住の市民5万人からの協力を得て、デジタル人民元の実証事件を開始しました。
市民は一人、200元(約3100円)ずつ受け取り、スーパーや飲食店など約3400の実店舗での買い物を行い、実用化に向けた課題を調べつつ、2022年の北京冬季五輪までに発行できるように調整を行っています。
現在のところデジタル人民元がいつ実用化されるのか明言はされていませんが、中国人民銀行が発行するCBDCがどのように人々の生活に普及し、国際間で利用され国際通貨の制度に影響を及ぼすのか目が離せませんね。
それでは日本はどうでしょうか。CBDCの推進の大きな要因とてあげられるのは上記にもある通り、現金の使用率の低下や決済インフラに関する問題点が浮上することです。この点では、日本銀行が発行する現金にはそのような事情は存在しないため、日銀は、現時点でCBDCを発行する計画はないと明言しました。
しかし公表されたレポートで、今後、よりCBDCに対する社会のニーズが高まる可能性がることを示唆しています。
決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、将来の環境変化に的確に対応できるよう、しっかりとした準備が重要と考えているそうです。
また各国のCBDCの取り組みと比較しても日本はこの分野に関して今はまだ後進国と言えるでしょう。
そのため日銀・政府も、企業や個人の利用を想定するCBDCについて、実際に導入する予定はまだなくても今後のニーズに備えてCBDCに対する取り組み方針を発表したと考えられます。
今後日本はどのような方針を取っていくのでしょうか。
公表されたレポートによると、今後も日本でのCBDCの実用化はないと明言しつつも研究開発については積極的に取り組む姿勢です。
実際に日本銀行は数年前から、CBDCに関する調査や研究開発に乗り出しており、積極的に実験に取り組んでいます。
2020年7月には実証実験の実施を含め、検討のステージを引き上げるため、決済機構局内にデジタル通貨グループを発足させてきました。日本銀行は考慮すべきポイントをレポートでは以下のようにまとめられていました。
物価の安定や金融システムの安定との関係
イノベーションの促進
プライバシーの確保と利用者情報の扱い
クロスボーダー決済との関係
このCBDCはまだ世界でも実際に導入された国はないので日本もCBDCの実現化にたいしては慎重です。
概念実証フェーズ1、フェーズ2そしてパイロット実験段階的にわけられて実証実験が行われていきます。
まず「概念実証」(Proof of Concept)のプロセスを通じてCBDCの機能要件や経済的な設計(発行額・保有額の制限や付利の有無など)については慎重な考慮され実現可能性を確認します。
そしてその概念実証が終わり、パイロット実験が必要とされると、民間事業者や消費者が参加しての実験が行われます。この、実証実験では、民間部門の先端的な技術やノウハウを活用していくことが不可欠でしょう。
#まとめ
いまはまだ日本は現金主義の国でCBDCの必要性は高くないように思えます。
しかし、このままキャッシュレス化が進み、日本銀行が発行する現金のアクセス機会が減少していけば私たちは民間の銀行の預金にもアクセスできなくなる可能性があるのです。そうすると、今は問題なく利用している決済システムや金融システムの安定性の低下など様々な弊害が生まれる可能性があるのです。
日本銀行がいくら現金を発行していたとしても、民間の銀行の現金流通チャネルが縮小すれば、日本銀行は私たちに現金を供給するのは難しくなっていきます。
特に、新型コロナウィルスの影響で民間の銀行のあり方や、Fintechの導入などニュースで取りざたされています。
今後、銀行の支店やATMなど現金流通チャネルが大幅に縮小した状態で何か問題が起これば、銀行預金と現金の交換が容易に進まず、私たちはパニックになるでしょう。
また政府は2025年までに40%のキャッシュレス比率を目指しその後も比率を上げていく取り組みをすると発表しています。
今後のキャッシュレス社会において、決済システムや金融システムの効率性、安定性を維持するには、CBDCの発行が一つの選択肢となるでしょう。
今後CBDCと銀行預金をはじめとする民間マネーが交換するプラットフォーム・サービスが構築されれば、CBDCがデジタル社会におけるマネーの基軸として機能するようになるでしょう。そうすることで、民間マネーに対する信頼性はキャッシュレス社会においても維持でき民間マネーとCBDCが共存できるでしょう。
他の国ではどんどんと進んでいる通貨のデジタル化。日本でもCBDCが流通する未来はそう遠くはないのかもしれません。
いかがだったでしょうか。今回は10月9日に公表された「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を元にCBDCの今後の展望を説明してきました!
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