
アフリカと聞くと、広大な草原に多くの動物、多種多様な民族を思い浮かべる人も多いでしょう。少なくとも、現代のテクノロジーが詰まった暗号資産を真っ先にアフリカと関連付ける人はあまりいないはずです。
しかしながら、たびたび多くの識者は「仮想通貨の未来はアフリカにかかっている」と言います。
実際にブロックチェーンデータプラットフォームのChainalysisによれば、アフリカ地域における2020年7月から2021年6月の暗号資産総受領額は1050億ドル以上で、これは前年の12倍だと言います。その中でもケニア、南アフリカ、ナイジェリアに関しては暗号資産利用額で世界トップ10にランクインしました。
また、アフリカに関するニュースに特化したメディア、Africa Reportによれば、2021年9月、サブサハラアフリカ地域(サハラ砂漠以南のアフリカ地域のこと)のユーザーが保有する暗号資産が8000万ドルを超えたといいます。この数字はアメリカにおけるそれをも上回っています。
では、長い間貧困にあえぐサブサハラアフリカ地域において、暗号資産はそれを打開する光となりうるのでしょうか。なるとすればそれはなぜなのか?
今回は、アフリカにおける暗号資産の可能性について探っていきます。
目次
ブロックチェーンの魅力
アフリカにおける暗号資産の可能性を議論する前に明確にしておく必要があるのが、多くの暗号資産の核となる技術「ブロックチェーン」についてです。
ブロックチェーンは簡単にいえば「世界中の人が共同で管理できる台帳」のこと。
取引の一つ一つのかたまり(ブロック)が、鎖(チェーン)のようにつながって管理できるというイメージから「ブロックチェーン」という名前が付いています。
メリットとしては
- 改ざんがほぼ不可能
- 特定のサーバーを介さずに直接取引(ピアツーピア)が可能
- 世界中の人が見ている透明性の高さ
等があります。
従来の中央集権型の管理システムでは実現できなかった革命的なフィーチャーが詰まっている技術、それがブロックチェーンなのです。
ブロックチェーンについてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事にて掘り下げて解説しておりますので、ご覧ください。
アフリカにおける可能性
ではそんなブロックチェーン技術を核とする暗号資産が、アフリカでどのように活躍するのでしょうか。今アフリカが抱える問題に着目しながら考えていきましょう。
通貨の価値
現在、ジンバブエをはじめとする多くのアフリカ諸国ではインフレが起きています。インフレが起きるということは自国通貨の価値が下がるということ。自国通貨の価値が下がれば公的債務も増え、ドルやユーロ建てが主な貿易でも苦しい状況に陥ります。
また、アフリカ地域内での通貨の兌換性も問題です。アフリカ諸国同士であっても通貨による取引や両替ができないという現状は、国際的な商取引の発展に歯止めをかける一因となっているのです。
ではここでブロックチェーン技術を背景とした暗号資産を導入するとどうなるでしょうか。
法定通貨と違い中央管理者のいない暗号資産では、国や政府などの後ろ盾がないため、例えばそれらが破綻した際にも通貨価値には大きな影響を与えないことが予想されます。安定した通貨価値を維持することができるということは、安定した経済活動が可能になるということです。
また、地域内で統一した暗号資産を使用することで、国際貿易が容易になり、地域単位での経済発展が見込まれる可能性があります。
汚職・腐敗の解決
アフリカに限った話ではありませんが、経済が未熟な国では政府高官などの汚職や腐敗が起きやすいといわれています。実際に統計データを見てみると、汚職や腐敗の割合と経済成長の度合には強い負の相関があり、それらの存在がさらに経済成長を遅らせるというパラドックスに陥っています。(出典:「汚職と経済発展のパラドックスー堀金由美」)
ブロックチェーンを用いた暗号資産の導入は、これに解決の兆しをもたらす可能性があります。前述の通り、透明性の極めて高いブロックチェーンシステムでは汚職や腐敗を国民から隠し通すことがほぼ不可能であり、これは国民からの信頼拡大や経済の発展において大きなメリットになります。汚職や腐敗が存在しないという事実は、外国からの間接、直接問わずの投資を拡大させることとなり、国際市場においても信頼を獲得できるきっかけになるのです。
金融インフラとしての機能
アフリカには3.5億人の「銀行口座をもたない成人」がいるといいます。
出典:2 billion people worldwide are unbanked ー World Economic Forum
これは、人々が金融システムにアクセスし、サービスを使い、経済生活を送るためのインフラが整っていないことを意味します。
従来、このような問題への主な対策は、大規模なインフラ整備以外にありませんでした。しかしそれには大規模な「ヒト・モノ・カネ」の3つが必要です。
しかしブロックチェーンを導入すればどうでしょうか。
ブロックチェーンに物理的な銀行は必要ありませんので、アフリカのリモート地域(人里離れた地域)にも金融インフラをあっという間に整備することができます。
これまで銀行口座を持たなかった人々が、暗号資産のアカウントを持ち、預金を投資に回したり、母国の家族に送金したりということが可能になることで、経済の活性化に繋がるのです。
導入の障害となりうるもの
では一方で、暗号資産をアフリカに導入する際に障害となるものは何があるのでしょうか。
インターネットインフラの不足
まずは、インターネットが遠隔地まで普及しきっていない状況が挙げられます。インターネットが「ある程度」使える国は大陸でも40%未満で、一部の国ではインターネット普及率が10%未満だといいます。
基盤となるインターネットが普及していかないことには、ブロックチェーンや暗号資産も普及していくことは難しくなります。
暗号資産の前にアフリカで革新的な普及を遂げたモバイルペイメントサービスの「M-Pesa」も、インターネットではなく、モバイル回線を使用したSMSなどでの送金ソリューションを追及していることから、この点での対策は必要不可欠です。
電気インフラの不足
サブサハラアメリカ地域では、人口の半数以上が電気へのアクセスがない(または不足している)状態だと言います。(出典:Access to electricity (% of population) - Sub-Saharan AfricaーTHE WORLD BANK)
電気がなければ、デバイスを使うことも、暗号資産にアクセスすることもできません。上記のようなSMSによるソリューションも意味をなさなくなってしまいます。
人口の全てを金融包摂(Financial Inclusion)するためには、この電気インフラの対策というのも国レベルで考えていく必要があるでしょう。
規制の未整備
アフリカの約6割の国が、暗号資産に関連する法律を定めておらず、かつスタンスを明示的に示していない状況です。
加えて2021年11月、イスラム教を国教とするインドネシアのウラマー評議会が「イスラム法において、不確実性や賭け、害悪の要素を含む暗号資産は禁止事項(ハラーム)とみなす」と宣言したことから、アフリカにおけるイスラム教国にも、禁止の流れが強まる可能性があります。
世界的に見ても国によって暗号資産に対するスタンスは千差万別で、もしアフリカ諸国が規制の強化に傾くようなことがあれば、上記のメリットを持った暗号資産の可能性のすべてが消え去ってしまうことになるのです。
テクノロジー導入の先駆けとしての「M-Pesa」
暗号資産が現れるよりも前に、テクノロジーという側面でアフリカの人々の経済活動を支えていたのはこの「M-Pesa」です。これは、携帯電話やスマートフォンの普及が銀行口座を大きく上回るアフリカ諸国において大きなイノベーションとなりました。
仕組みとしてはSMS(モバイル回線)を用いてメッセージを送受信することで簡単に預金や送金が実現できるといったものです。
現在、このM-Pesa利用者は4000万人にのぼると言われ、アフリカの人々のお金の利用、保管方法に革命をもたらしました。
それだけではありません。このM-Pesaの成功が示しているのは「アフリカでもテクノロジーによる変革が可能」という断然たる事実なのです。
歴史的背景や外部からのステレオタイプなどで、アフリカはグローバリゼーションやテクノロジーによる革命から取り残されてきました。ただM-Pesaはそれを覆しました。アフリカにおいても、人々の生活が良い方向に変わるテクノロジーは普及し、繁栄していくのです。
一つ鍵になるのは、暗号資産が物理的に存在しないということ。
M-Pesaのビジネスモデルでは、代理店という存在が不可欠です。アフリカの広大な土地に隅々まで代理店を作らないと、真の意味での金融包摂は実現できません。
一方暗号資産はネット上で完結することが強みです。暗号資産導入の障害として上記に挙げた「インターネットインフラ」という点を解決することができれば、道なき道を切り開いてくれたM-Pesaの道しるべとともに、暗号資産も人々の生活に浸透するのに時間はそれほどかからないかもしれません。
まとめ
今回はアフリカにおける暗号資産の可能性と題し、今後暗号資産がアフリカに与える良いインパクトや導入への障害について解説いたしました。
アフリカに限らず、暗号資産は脆弱な金融インフラをそっくりそのまま置き換えることができる可能性を持っています。
現代のテクノロジーを利用して、世界経済の発展、人々の生活レベルの向上にぜひ役立っていって欲しいですね。
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